西暦2015年1月17日 決戦兵器「仙台大観音」内部
「大佐、ここから上に上がれます!」
登竜門が冬季閉鎖中であり、一般人はおろか信者も先に進めず、結局仙台大観音からは冬には誰も立身出世のご利益には与れないことが分かったところで、観音の脊髄の中を貫通するエレベーターで上階を目指すことになりました。
最上階。
エレベーターで行けるそれは、高さ100mもあるのに14階建ての12階部分に当たり、高さ68m地点、海抜249m。長年に渡り多くの人々に「なんだもっと上にいけないのかよ」と失望を与え続けたこの仙台大観音。しかし、地元中山地区では13階と14階部分にはコックピットがあり、有事の際には人が乗り込んでマニュアル操作で操縦されることは公然の秘密。来るべき宇宙怪獣との戦い備えた決戦兵器「仙台大観音」の国家機密区域に、民間人が侵入できるわけがありません。
そして普段はこの観音の心臓部の秘石の間で制御され、いつの日かこの地に仙台大観音を動かす勇者の来訪を静かに待っているのです。
ロトの剣。
男子たるもの、これは抜かざるを得ないッ!
しかし、勇者たちの前には、強大なる結界が張られていることが多言語で警告されています。
"You can not enter into this
Alarm is activated"
どうも日本語に書いてある内容と若干齟齬がある合理性が垣間見られますが、やがて現代文明が滅亡した後、仙台大観音遺跡を発見する未来の探検者と考古学者たちは、このロゼッタストーンの翻訳に大いに苦労するに違いありません。
「合掌 = Alarm」とか未来人たちが誤訳したらどうしよう、と思うと、ワクワクして寝られません。いや、これは21世紀人類による、未来への罠なのかも知れません。
こうして主として英語の警告に恐れをなした我々一行は、この部屋を後にした瞬間、驚愕の声を上げたのです。
「な、なんだこれは・・・。こ、これが仙台大観音の『中枢』・・・?」
「観音の『背骨』さ。108体の小型観音によって構成された、人類最大にして最強の霊力増幅装置・・・」
「あれが全部小型観音だとッ!?こ、こんなものが地元にあったとは・・・」
下から吹きすさぶ不気味な低温の風の音が洞内に響き、我々の足音はこだまします。
この無駄に壮大な空間。
そう、これこそが
「バブルのチカラ」
・・・!
「うわーい、うわーい、かんのんさまー、かんのんさまー」
突然、T田氏の嫁が狂ったように螺旋階段を、まさかのアニメ声の奇声を上げながら下りて行きます。
「しまった、このサイケデリックな空間と観音の怪しのチカラで、心を惑わしたかっ!」
「いや、いつもと変わらんだろ」
「い、いかン!おい、嫁ッ!まて、そっちに一人で行ってはダメだ!」
「はっはっは、どこへ行こうと言うのかね?」
嫁を追いかけて、60mの壮大な吹き抜け空間の螺旋階段を降りる一行。
その後、内部では究極の秘法が行われ、まだ建造から25年しかたっていないのに前世紀の恐るべき発掘品を目の当たりにすることになろうとは、まだこの時は知る由もなかったのでした。
(つづく)