―――――――――西暦2015年1月17日 字中山東――――――――――
「大佐・・・、これは一体・・・」
「仙台大観音の中枢だ。周りの外観などガラクタにすぎん。バブルの科学力と経済力、巫力、そして夢と希望は全て観音の内部に結集しているのだ。」
20年ぶりだな・・・。
この禍々しい通路。このスターウォーズの銀河元老院の議場のような螺旋階段。この税金対策のために100mなのに14階までしかいない構造。この無駄に造詣が手が込んで美しい108体の観音たち・・・。
大仏か・・・、何もかもみな、懐かしい・・・。
「見てください、大佐、『登竜門』です!!」
カサマが感傷に浸る間もなく、「登竜門」の声が内部にこだまします。
「立身出世への門」という身もふたもない朱筆された文字を一瞥しながら、全てを知っているかのようにカサマは冷静に言うのでした。
「ここから先は信者しか入れない聖域なのだ。」
ああ観音よ、私は帰ってきた。
カサマは一人、往時と変わらぬ、しかしどこか寂れた観音内部を見ながら、人生で最もリア中だった青春中学時代の記憶を反芻するのでした。
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仙台大観音。
甲子園を目指す某高校は生徒が必ず祈りをささげ、某川内付近の高校の物理部では文化祭の後に「観音参り」と称してわざわざ「勝利の歌」を歌いに行くなど、センダイ市民の一部には割と「不敗の神」と言われる霊験あらたかな観音様。
事実、21世紀初頭、サッカーワールドカップが宮城スタジアムで開催された時、ロイヤルパークホテルに泊まったチームは敗退したのに対し、観音隣の「ニューワールドホテル」に宿泊したチームが尽く勝利するなど、驚くべき実績がありました。
我が日本代表が初のベスト16進出の中、トルコ代表とのベスト8を宮城スタジアムで争った2002年。
多くの日本国民がベスト8進出を確信する中、日本代表がロイヤルパークに泊まり、トルコ代表チームが観音隣のニューワールドホテルに宿泊しているという事実を知っていたセンダイ人の全てが、日本代表の敗北を予感。多くの人々が仙台大観音にトルコ代表チーム敗北の呪いをかけたのでした。
しかし結果は日本代表の敗北。
それ以来、仙台大観音の恐るべき巫力は世界に知られるようになり、むしろ仙台大観音には「勝利の呪い」や「幸福になる呪い」という、恐るべき秘法が行われることになったのです。
もっとも、偶像崇拝を禁じるムスリムの皆さんが多いトルコチームを、人類最強の偶像である仙台大観音の隣のホテルに試合前に宿泊させるのは中々の配慮ではありますが。
それから10年後、リア充ハンターとして立派に育ったカサマは、ある日思い立って試みに仙台大観音に「世界が幸せになる呪い」をかけたのです。
結果、3か月以内に知人友人が5組、カップル成立はおろか結婚又は同棲を開始するという、恐るべき成果が発現ッ!
一組は7年越し、一組は9年越し、もう一組に至っては14年越し。
これぞ真の「奇蹟」。
そのお礼参りとして、仙台大観音の幸せになる呪いにかかったリア充友人新婚婦を引き連れて、仙台大観音にお礼参りをすることにしたのでした。
しかしそのリア充新婚夫婦が見たのは、確かに生きていたはずなのに見たことがない、恐るべき20世紀の遺産だったのでした。
(つづく)