―――1980年代半ば 仙台市中山地区―――
「今度近くに100mの巨大大仏ができるらしい」
今を去ること20年以上前、カサマが住んでいた天空都市「ナカヤマ」地区では、そのような噂が絶えませんでした。
100mの大仏?
ばかな、小学館の図鑑で見た奈良の都の盧舎那仏像ですら15mほどだったはず。それをはるかに上回る100m規模とは!
いったい何の目的で。
しかも話はそれだけにとどまらず、千葉ディズニーランドがオープン間もない当時、ニホン最大級の屋内遊園地の建設が、巨大大仏に隣接する地域で計画に上がっているというのです。
これで永遠のライバルである、同じように天空都市に住むあのやんやんややんヤギヤマの連中を、いよいよナカヤマ人が屈服させる時が来る!ナカヤマに住む子供たちは、大いに狂喜乱舞したのです。
古くより蝦夷の聖地として知られ、仏舎利塔を頂点とした霊験あらたかなこの国見・中山地区。そんな神聖な地に、かつては奥州王伊達政宗が鷹狩りに興じ、この山中の高台から国家に思いをはせたと言います。
そしてその聖地にニホン最大級の屋内遊園地(繰り返し)とともに、20世紀の科学力と誣力の粋を尽くして100mの超巨大大仏が建設されようとしているのです。それもフタバソウゴウカイハツという地元のたった一企業の力において。
兄弟四人が全員フタバヨウチエン出身のカサマ一族としては、誇らしい限りです。
しかも、この大仏の高さ100mとは、市制100周年を記念したというではないですか。
何と殊勝な。
おそらくこの超巨大大仏は仙台開闢以来最高の栄華を象徴する、偉大なる像となるでしょう。20世紀後半にこの地に「王道楽土」が現出したことを、人々は永遠に記憶するのです。
そう、かつて平城京にて当時の科学力と財力と人民の熱い思いが込められた盧舎那仏像のように。
とにもかくにもナカヤマ地区では、その時期は町内会の会合では役員が「大仏」の経済効果を語り、主婦は藤崎スーパーで「大仏」のご利益を語り、フタバ幼稚園生は電力研究所の実験施設に侵入して、科学と神仏の最終戦争について、みな熱く語ったのでした。
・・・
しかしその王道楽土が、後に「バブル」という、古代バビロニア関係の何かのように呼ばれ、旧約聖書のソドムとゴモラの時代のような享楽世界として扱われ、そのあげく、まさかこの大仏がニホンでもっとも有名なバブルの象徴の一つになろうとは、このとき人々は知る由もなかったのです。
そう、実際にアレの影響が始まるまでは。
(つづく)