---2001年 宮城大学内レストラン---
「センダイジンの気質はあの巨大な大観音像に集約されているように思うんだよ」
三井物産戦略研究所(当時)所長の寺島実郎先生は、突然学生たちを前に切り出しました。月2回宮城大学で行われる寺島先生の授業の後に、学内レストランで聴講した学生とのコミュニケーションを取るのが恒例となっており、二十歳そこそこの学生たちは団塊の世代最強の論客から薫陶を受け、一方で寺島先生は「今どきの若者」という便利で怪しげな単語を実地で検証する機会としていたのです。
「講義でもちらっと触れたが、君、あの観音をどうみる」
突然の先生からの問いに、学生たちは緊張しながらも語気を強めて答えます。「怖い」「景観を破壊するひどい建築」「バブルの塔」「仙台の恥」「むしろ邪教」。ありとあらゆるネガティブな意見が並びます。
「そうかね・・・」
寺島先生はなぜかその時は自身の意見は出さず、深く椅子に座りなおすと、コーヒーをゆっくり飲みながら、「ぬう」と低い声で唸り、ただ学生を見渡すのでした。
グローバルなビジネスや世界情勢を常に鳥瞰する、百戦錬磨の第一級のビジネスマンすら理解に頭を抱えてしまう「仙台天道白衣大観音」通称「仙台大観音」。
そのやりとりの様子を見ていたカサマは、一人偉大なる仙台大観音の建立当時を思い出し、なにやらいずい気持ちになりながら、「バブルは遥かになりにけり」の感を強くするのでした。