「におい」を漢字変換すると「臭い」と「匂い」が出てきますよね。
で、「臭い」は悪臭の時に使い、「くさい」とも読んだりします。
一方「匂い」は、比較的良い香りの時に使い、「香り(かおり)」とも言い換えられます。
で、今回気になったのは、同じ音で、同じく嗅覚を刺激するものを表現するのに文字が違い、かつ、正反対の印象を植え付けられている「匂い」と「臭い」、それに「香り」に関して調べてみました。
まずは、「臭」。
この文字はもともとは下の「大」は「犬」で、上の「自」は鼻を正面から見た形で「鼻」の意味があるそうです。
つまり「臭」は犬の鼻のことで、犬が「におい」を嗅ぐことから「におい」を表す文字なんだそうです。
してみると、成立時点では、特に「悪臭」に偏った意味は無いように思います。
で、先に、「香」。
「黍」と「甘」を上下に組み合わせた文字で、黍が醗酵して甘い香りを出すことから、その「におい」に「香」の字を当てたそうで、つまりはこっちが最初から「臭」と対になる「良い香り」を表す文字だったようです。
なので、流れとしては、「良い香り」に対して「悪い臭い(におい)」との区別ができて、「臭」は悪い方を受け持つことになったようで。
では「匂」はというと、
元は良い音を表す「韻」の異体字「韵」から来ていて、この右半分が「匂」に変化した国字だそうです。
こっちは最初から「良い」意味があるようではあります。
そもそも「におい」という言葉は、
赤土を表す「丹」という文字から来ていて、「丹」単体で「あか」の意味を持っているので、「赤くする」事を表現するのに「丹(に)」を動詞化して「丹ふ」、これが「丹ほふ」となって、「におう」「におい」となったという話があります。
その昔、赤くすることはつまり綺麗にするような意味があり、つまり「にほふ」=「におい」という言葉は、嗅覚に限ったことではなく、色彩等の見た目や雰囲気も含めて、そこからかもし出される、何がしかの形にならない良い印象を指して使う言葉だったようです。
「丹」という文字自体は、赤土が産する井戸の形から生まれた文字で、これがそこから取れる赤土、ひいてはその色を表す文字になったんだそうです。
してみると、「におい」自体は決してマイナスイメージがない言葉で、「香り」とは語源こそ違うけれど、どちらももともとは良い意味しかなかったものが、「臭」の文字で表現されるものだけが悪い意味に転化していって、今のような使われ方になったようですね。
ちなみに「くさい」という言葉は、
「腐る(くさる)」を語源とする言葉のようで、モノが腐敗して悪臭を放っている様子から生まれたため、最初からマイナスイメージなわけで、「くさい」=「臭い」は至極繋がりやすいと思われます。
漢字自体は当然中国から伝わってきていますので、そもそも中国において「臭」にマイナスイメージの「におい」の意味がくっついて日本に来ていれば、「くさい」を表現するのに「臭い」と書くようになったのも頷けますよね。
「くさい」と「におい」は、正反対のイメージの嗅覚表現だったのが、「におい」の方が嗅覚表現全体を表す言葉となり、漢字表記の時だけ、元々の意味の通り書き分けるように習慣が残った、ということでしょうか。
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「くさい」と言えば、先日組合の食事会の時に「ニンニク(大蒜)」の話が出て、仕事中には「臭い」が気になるので、「ニンニク」が食べられないという話が出ました。
あの「ニオイ」は、ニンニクに含まれる「アリイン」というタンパク質が、「ニンニク」を切ったりすりおろしたりして空気中の酸素に触れた時に、ニンニクに含まれるもう一つの成分の「アリナーゼ」という酵素が働くことで、「アリイン」が「アリシン」というものに変わり、この「アリシン」が強いニンニク臭を発生しているのです。
なのでもちろん、生で食べれば「くさい」ニンニクですが、実は「アリナーゼ」は熱に弱く、数分間ボイルしたり焼くことで壊れてしまい、「アリイン」と反応することがなくなるので、ニンニクを切っても、食べても、それほどの「におい」はなくなってしまいます。
また、すりおろして長時間放置しておくと、「アリイン」と「アリナーゼ」の反応がすべて終了して発散してしまうことで、「におい」はかなり消えてなくなります。
「アリナーゼ」は沸騰したお湯で5分間ほど茹でるとなくなると言われ、(5分以上やっても意味はありません)かつ、ニンニクの栄養素は生で食べた時と変わりはないそうですよ。
新鮮なおろしニンニクならいざしらず、ある程度の時間、煮たり、焼いたり、炒めたりしたニンニクは、実はそれほど「におい」を発しないものなので、(もちろん、調理方法にもよりますが)必要以上に気にすることは無いと思うのですが、どうでしょう?
一般に中華料理でニンニクのニオイがきつく感じるのは、中華の調理法的には、短時間で強火力の調理が多いため、「アリナーゼ」が壊れきれず、「アリイン」と反応するからだと思われます。
ちなみに「アリシン」はタンパク質や脂質・糖質と非常に結合しやすく、結合するとそれらの物質が「アリシン」を包み込み、「アリナーゼ」との反応を阻害するため、肉類やタンパク質のものと一緒に食べることでも、「ニオイ」は低減するそうです。
それでも気になる方は、お茶等の「カテキン」を含むものを一緒に飲んだり、食後に飲んだりすると、かなり違うそうですよ。牛乳を飲むと良いのも、牛乳の中のタンパク質との結合があるかららしいです。
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ニンニクの「香り」を「臭い」というか「匂い」というかは、その人の感覚だけでなく、その場の状況にもよりそうでは有りますが。