もう誰もこの話についてきてくれていないようですが、
今回も前回からの話の続きです。
「くどくて長い」とのご意見も頂いたので、今回は短めに。
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今回は、「鍵」と「鍵盤」、
「Key(キー)」と「Keyboard(キーボード)」の関係に関してです。
そもそも、「錠」とセットで使う「鍵」と、
ピアノやパソコンの「鍵盤(キーボード)」に使われる「ケン」と呼ぶ「鍵」が、
どうして同じ文字で表現されるのか?
ということなんですが・・・
色々調べてみると、結局鍵盤楽器の起源に遡ることになります。
で、鍵盤の付いた楽器で最も古いものが何か?と言うことになるのですが、
どうやらいわゆる「パイプオルガン」がその元のようです。
と言っても、現在のようなものすごく巨大なものではなく、もっと小さなものではありますが。
パイプオルガンはパイプに空気を送り込むことによって音が出ます。
その空気の出入口をふさいでおいて、音を鳴らす時だけ空気を送り込む
その弁のようなものを「Key」と呼んだようようです。
ここで言う「Key」は「鍵(かぎ)」ではなく、「関門」の意味のようですが、
パイプの出入口を開閉する部品と思えば、
「鍵」というのも、なんとなく頷けます。
これが後にこの「Key」を動かす仕組み全体を、
最終的には、その仕組みを動かす部分(今で言う鍵盤)も含めて、
「Key」と呼ぶようになった、ということです。
でも、パイプオルガンが出来たのはヨーロッパ起源ですから、
言語としてはおそらく「Key」という英語ではなかったはずです。
で、調べてみると、
現在のピアノのご先祖様にあたる楽器に「クラヴィコード」という楽器が有りました。
これは、箱の中に「弦=Chord(コード)」を張り、
その弦を「鍵=Clavi(クラヴィ)」がたたいて音を出すと言うものです。
「鍵=Clavi(クラヴィ)」は、前回の「コンクラーベ」の語源のところでもご紹介しましたが、
ラテン語の「clavis (=鍵)」が語源の言葉ですね。
実は英語でも「鍵盤」は、「Keyboard」以外にも「clavier」とも言うのです。
またラテン語の「clavis」には「鍵」とともに「鍵の番人」とか「門番」、「関門」の意味も有りました。
どうやら、このあたりが元のようです。
パイプオルガンのパイプの空気をせき止めるところが「Clavis」で、
そこから派生して「Clavis」を動かす部分=鍵盤も「Clavis」となり
これが他の「クラヴィコード」や「チェンバロ」、後の「ピアノ」にいたるまで
同様の鍵盤装置を全て「Clavis」と呼ぶようになった、ということのようです。
他にも、鍵盤楽器の「鍵」(ケン)の形がもともと当時の「鍵」(かぎ)に似ていたから、
という話も有りましたが、パイプオルガンの「Clavis」起源の方がもっともらしいと思いますので、
私としては、こちらの説を採用したいと思います。
とすれば、
これが一般的な英語に訳されたときに、
ラテン語の起源的に、「Keyboard」になったのもうなずけますし、
日本語になった時に「鍵盤」と訳されたのも納得が行くところではないでしょうか?
パソコンのキーボードなどは、その前の時代のタイプライターからして、
指で扱うその形態がピアノの鍵盤に似ていたからともいえますし、
「Key」の意味を、鍵盤がそうであったように、その先のアクションを起す
スイッチ的なものの意味として捉えれば、充分納得です。
ということで、結局
「鍵盤」の「鍵」(ケン)も、元は(広義の)「鍵」(かぎ)だったわけですね。
しかし、ここで一つギモンが生まれます。
「錠」をあける「鍵」は「かぎ」で、
「鍵盤」の「鍵」は何故「ケン」なのか?
思うに、これは「物体」と「文字」と「(音声としての)言葉」の問題なのでしょう。
「錠」をあける「鍵」(かぎ)は、
その用途と日本語としてあった「鉤」の形態との結びつきで「かぎ」となり、
「鍵盤」の方は元言語の字義の訳として先にこの「文字」が当てられ、
「ケンバン」と読まれるようになった、と。
まさしく、音訓の違いと言うわけですね。
これでやっと、§1の④のギモンは解決しました。
次回は「錠」の方を掘り下げてみたいと思います。
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ちなみに、皆さんは「オルガン」とだけ言われると、
昔学校の教室にあった、机みたいな形のものを思い浮かべませんか?
実は、世界的な認識では、「オルガン」とだけ言うと、
「パイプオルガン」の方を指します。
学校にあった机みたいな奴は、
「リードオルガン」と呼び区別します。
日本と世界では認識が逆なのですね。
これが、
「クラヴィコード」という楽器です。
フタを閉めたらただの机ですね。